この事例の依頼主
70代 男性
相談前の状況
相談者は71歳で喉頭癌を発症しましたが、放射線化学療法が奏功し、喉頭癌は治癒、再発チェックのために通院を続けていました。4年後、物を飲み込みにくく感じるようになり、上部消化管内視鏡検査を受けたところ、Ⅲ期の食道癌と診断されました。ところが、この食道癌は、4年前の喉頭癌治療開始時に既に発見されていました。重複癌のチェックのため行われた内視鏡検査で病変があり、その病理組織検査でごく初期の癌であることが確認されていたのです。その病理診断の報告書に主治医が気づかないまま、4年にわたって放置されていたのでした。
解決への流れ
相談者は医療事故調査を依頼してまもなく亡くなりました。直接死因は食道癌です。病院は、病理診断の報告書に目を通していなかった主治医の過失は認めましたが、喉頭癌自体もⅢ期であり長期予後はあまりよくないこと、仮に病理診断の報告書をきちんと読んでいても、まずは喉頭癌の治療が優先され、早期食道癌のうちに治療が開始できたかどうかは不明であることなどを挙げて、過失と死亡との因果関係を疑問視する姿勢を示していました。遺族から損害賠償の依頼を受け、死亡慰謝料及び逸失利益(年金)を算定して請求しました。病院側の当初の回答は、死亡慰謝料というよりは治療機会喪失の慰謝料という程度の解決金でしたが、交渉を重ね、死亡慰謝料相当額での示談で解決することができました。
癌の見落としは、医療相談の中でかなり大きな割合を占めます。本件のように過失が明らかな事案でも、損害の評価は常に問題になります。しかし、多くの遺族が問題にするのは、賠償額の多寡というよりは、それが医師の責任の評価として正当なものなのかどうかということです。医療関係者や損害保険の会社には、その遺族の気持ちを是非理解してほしいと思っています。