この事例の依頼主
60代 女性
院長が亡くなった医療法人の理事を務めておられる方からの相談です。相談者の方は病院宛ての取引先や銀行、税務署等から請求書や問い合わせに留まらず、院長が個人的に患者さんたちからお金を借りていたため、その対応に追われ、大変困惑されていました。病院は破産により清算すれば解決できるのですが、債権者である患者さんに対する検討が悩ましい状況でした。というのも、相談者の方は病院近くに住居があり、患者さんと同じ地域に住んでおり、今後の生活に支障があったのです。実際のところ、一部の患者さんたちは依頼者の方の住居を訪問し、直接督促に来るような状況でした。依頼者の方も生活でいっぱいであり、返済することも住居を変えることもできません。そこで、患者さんらの利益を得るべく、破産手続でを患者さんらに一部でも配当することができるよう病院の資産をできるだけ確保することにしました。
受任後、早速、未払い診療報酬を請求すべくレセプト作成用の資料を収集し、院長の死亡保険金が下りるよう保険会社と段取りを組みました。別の保険会社の死亡保険金もあったのですが、既に住民税滞納により差押えられていました。そこで、滞納分と遅延損害金充当後の残りの保険金を役所から支払いを受ける手続を取りました。申立て後、管財人に事情を説明したところ、患者さんに対する配慮に理解が得られました。そして、管財人が診療報酬、保険金を回収し、患者さんたちにその債権額に応じて、一部配当がなされました。患者さんたちも到底満足には至らないものの、納得せざるを得ないものと状況を理解したようで、その後、依頼者の方に対する請求や連絡等は一切なく、依頼者の方は大変安堵され、心の平穏を取り戻すことができるようになりました。
実を言うと、患者さんたちの借入は契約書上、院長が個人で借りたのか、法人としての病院で借りたのかが判然としないものでした。単に清算するとの観点だけであれば、病院の負債かどうかよく分からないものは計上しないとのドライな処理もあったかもしれませんが、患者さんたちの感情と依頼者の置かれている状況を管財人に理解してもらえたのが奏功しました。もちろん、少しでも配当額が増えるように資産を確保することはきわめて重要です。