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職場サンダルで4人が転倒した「魔の外階段」、地裁と高裁で「会社の責任」が割れたワケ
2022年07月15日 10時31分

2018年8月、横浜市の居酒屋で40代男性従業員が、雨にぬれた外階段を店備え付けのサンダルを履いて降りていた際に、転倒して骨折しました。

東京高裁は2022年6月29日、男性側の賠償請求を棄却した横浜地裁判決を覆し、店を運営する第一興商に約320万円超の支払いを命じました(7月14日付で確定)。

実は、この階段は男性以外にもサンダルを履いた3人が相次いで転倒する「魔の現場」となっていました。職場で転んだら、責任は自分なのか、会社なのか。判断が分かれた理由を探ります。

2018年8月、横浜市の居酒屋で40代男性従業員が、雨にぬれた外階段を店備え付けのサンダルを履いて降りていた際に、転倒して骨折しました。

東京高裁は2022年6月29日、男性側の賠償請求を棄却した横浜地裁判決を覆し、店を運営する第一興商に約320万円超の支払いを命じました(7月14日付で確定)。

実は、この階段は男性以外にもサンダルを履いた3人が相次いで転倒する「魔の現場」となっていました。職場で転んだら、責任は自分なのか、会社なのか。判断が分かれた理由を探ります。

●30分以内に2度滑った人も

判決によると、会社が用意していたサンダル2、3足は裏の凹凸がなくなるなど摩耗しており、つるつるの状態でした。外階段は雨どいがなく、2階と3階の店舗を行き来したり、ゴミ出しなどの業務で常に使われています。

男性の他にも3人が転倒。転んだ人の中には、30分以内に2度滑った人もいます。一方、サンダルの交換や滑り止めの設置、注意書きを掲示してからは誰も転んでいません。

●会社「サンダル履くのは義務ではない」、責任を否定

東京高裁は「4人全員が不注意で転ぶとは考えにくい」と判決理由で述べています。このサンダルは「雨にぬれた階段を降りるために安全に使用できる状態ではない」とし、新しいサンダルを用意するなど事前に配慮する義務があったと判断しました。

会社側は「サンダルを履くのは義務ではない」「雨が降って滑るのは当然」と責任を否定していましたが、店長が現場を確認しており、事故も頻発していたことなどから危険は予見できたとしました。

一審横浜地裁は「従業員の不注意が原因」だとして賠償責任を認めませんでした。判断が分かれた理由について、労働事件に詳しい神内伸浩弁護士に聞きました。

●高裁は本人の過失からではなく、「濡れた階段」の安全性から検討

ーーなぜ一転して東京高裁は会社側に賠償命令を出したのでしょうか。

本件事故は2つの過失から生じたものとして整理すると分かりやすいと思います。1つは本人の「足元をよく見ずに降りた」という注意義務違反、もう1つは転倒防止措置や従業員教育を怠ったという会社の安全配慮義務違反です。

確かに安全配慮義務がきちんと履行されていたとしても本人が注意深く足を運ばなければ転んでしまうこともあります。実際、本件階段は、建築基準法の要請を満たすものであり、手すりや照明の設置等、一定の安全性はクリアしているものでした。

そこで、一審判決は、会社が負う安全配慮義務は「従業員が一定の注意を払うことを前提としたもの」として、会社の安全配慮義務違反を否定しました。

しかし、高裁判決は、会社の安全配慮義務違反について判断する際、本人の過失の有無から入るのではなく、濡れた階段の安全性という観点から検討しています。

確かに建築基準法の要請をクリアしてようが、手すりや照明が設置されてようが、摩耗した「つるつるサンダル」で降雨後の濡れた階段を下りるのは危ないです。

実際、注意書きと床の滑り止めを施し、サンダルを交換したことで、その後の事故はなくなったそうです。「やればできる」のだからそれを事前にしなかったのは会社の落ち度(安全配慮義務違反)ということになります。

そのため、結論が異なったと考えられます。どちらの考え方もスジは通っているのですが、物事の要因は必ずしも1つではないので、高裁の判断の方がしっくりくるように思います。

<地裁> 本人に過失があるか → ある → 安全配慮義務違反なし 

<高裁> 濡れた階段が危険か → 危険 → 安全配慮義務違反あり
本人に過失があるか → ある → 過失相殺を行う

●会社だけの責任ではなく、本人の過失割合を4割と判断

ーー高裁も全面的に会社の責任としたわけではなく、男性にも一定の注意義務はあったと付け加えています。過失相殺について教えてください。

損害賠償の制度趣旨は「損害の公平な分担を図る」というところにあります。ある人の不注意で別の誰かが損害を受けたのであれば、その原因を作った人に損害を負担してもらおう、と考えるわけです。その原因が被害者と加害者双方にあるなら、その寄与度に応じて損害の分担を図ります。これが過失相殺です。

本件の高裁判決は本人の過失割合を4割と判断しました。会社に安全配慮義務違反があろうと、濡れた階段を通行した人全員が転倒するわけではないので、本人に過失があったことは事実と言わざるを得ません。

なぜ4割なのかという部分は裁判所の一存で決まるので何とも言えませんが、会社の責任は半分よりもちょっと重い、といったところだったのではないでしょうか。

●職場で転倒、どんな場合に会社の責任を問えるか

ーー職場で転んでも「自分のせい」とされてしまう場合があります。会社の責任を問えるのはどういう時でしょうか。

濡れた階段ではなく、室内の平坦な何も障害のない床で転んだ場合について考えてみます。誰しも、何も無くてもつまずいて転んでしまうということはあります。それが職場だった場合、会社の安全配慮義務違反となるでしょうか。

確かに会社は労働契約に付随して、労働者に対し、安心安全に仕事ができるような職場を提供する義務(安全配慮義務)を負っています。しかし結果責任ではないので、会社にコントロール不能な事項についてまで責任を負うわけではありません。

何の障害もない平坦な床で、突然転倒し、それが100%自分の過失という場合には、会社の安全配慮義務違反を問う余地はありません。

しかしながら、例えば、業務上荷物を運ぶため両手と前方の視界が塞がっていたとか、障害物が置いてあった(片づけていなかった)とか、会社に結果回避可能性が認められる場合には、会社の安全配慮義務違反が認められる可能性もあります。

なお、労災(業務上災害)は業務起因性と業務遂行性を要件に認められるものであり、使用者側の過失を要件としないので、安全配慮義務違反が認められないケースであっても労災保険の対象となることはあります。

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